「出現する未来」 〜 意識の底までガッツリ潜れ。

ビジネス版グラン・ブルーか、はたまたハチワンダイバーか。

「出現する未来」(原題:Presense)は、MIT上級講師のPeter Sengeをはじめとする4名の著者が、U理論(Theory U)をキーコンセプトに、「世界組織自己を再創造する能力は、いかに育成されるか」を語る書。

出現する未来 (講談社BIZ)
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U理論の内容を一言で表すなら、「意識の底までガッツリ潜れ」というものになるだろう。分析して論理的に考えて、、、という手法とはまるで真逆。分析してはおしまい、考えたらそこで試合終了という世界。MBA的論理思考に過度に傾倒することや、「目標を定めて脇目も振らずに突き進め」的なアプローチに対するアンチテーゼ的なトーンも感じられる本。

論理思考のど真ん中で生きて来て、その恩恵と同時に限界をも知り尽くしているであろう著者たちだからこそ、その内容に重みがある。

「考えない」ことを、言葉というツールで表現することは、どうしても禅問答になりがち。この本も、その宿命から逃れられてはいない。

ただ、禅問答ではあるものの、瞑想・座禅などを通じて、深い内省に慣れている人や、クリエイティブなヒラメキの感覚をわずかながらでも身体化している人にとっては、非常に手応えのある本となるだろう。こうした人々にとっては、Sensing-Presensing-Realizingの3ステップ分けというのは、自己の経験を整理して理解するのに非常に貴重なものであろうと思う。反面、そうした経験のない人にとっては、上っ面のみの理解をもたらし、それで良しと錯覚させる可能性はありそう。

同書の中でも触れられているが、U理論の中で一番難しいのは、Presensingのところ、というのは多くの読者が同意するところだろう。

Uの底に降りるプロセスが浅いと大した変革は望めず、価値ある変革のためには「ハチワンダイバー」のスガタの如くガッツリ深いところに何度も何度も降りる必要がある!と語るのはラクだけど、これを実現するのはなかなか難しい。実際に経験を積み重ねることでしか、理解が深まることはないのだろうと思う。